マスコミ向け配布資料
国際共通語エスペラントにより操作可能な世界初のパソコンを開発
── 国産基本ソフト『トロン』のエスペラント版が誕生 ──

エスペラントTRON研究会
../tron/
                              (2001年10月13日)
en Esperanto
1. TRONとは?
TRONは,The Real-time Operating system Nucleusの頭文字を集めたOS(基本ソフト)である。これは、1984年に東京大学の坂村健氏(当時講師、現東京大学大学院情報学環教授)によって提唱された、コンピュータ社会の理想的な基幹整備を研究・設計するプロジェクトである。
TRONには、工業用のITRONその他がある。このITRONはほとんど全部の携帯電話や、自動車エンジンの制御に使われている。
今回ここでとりあげるビジネス用のBTRONは,パソコンや,PDAのための基本ソフトであり、その製品の一つが日本のパーソナルメディア社から市販されている「超漢字3」なのである。「超漢字3」は、Windowsパソコンに簡単に導入することが出来、Windowsと「超漢字3」との間でデータの交換も行える。「超漢字3」は、シリーズ累計30万本が売れるというヒット商品になった。

坂村教授によると,BTRONの特徴は次のようである。

(1)シンプルなこと。簡単だから覚えやすく、誰でもがたやすく、すぐに使えるようになるし、簡潔なアプリケーションを組み合わせて高度なことが出来る。

(2)すべてのアプリケーションでハイパーテキストの機能を利用できる。(たとえば、手紙に「私は住所録を作りました」と書いたとき、「住所録」という単語をクリックすると、別のところに作成してあった「住所録」のリストが即時に現れて、先の手紙の中にそのリストを加えることが出来る)。

(3)Windowsなど他のOSでは、利用可能な文字の総数に大きな制約がある。特に、漢字に関しては、少ないものではJIS第1・第2水準の6000字強、多いものでもUnicodeの2万字程度しか利用できない。これに対して、BTRONでは、非常に多くの文字を同時に混在して利用できる。現在の「超漢字3」で利用できる文字は17万字強であるが、フォントさえ追加で用意すれば、最大で150万種の文字まで利用することができる。

(4)外字ではないため、インターネットや電子メールによってデータを送った場合でも、文字化けや欠字をおこさない。

(5)コンパクトでリアルタイム性に優れている。動きが軽快である。

(6)仕様が公開されており、その仕様に基づいた製品開発を誰でも自由に行なうことができる。

2. エスペラントとは?
エスペラントは1887年にポーランド(当時はロシア領)の眼科医ザメンホフによって考案された国際共通語である。当時の激しい民族間抗争と民族差別とを体験したザメンホフは、ことばの壁や民族的偏見をのり越えて、人々が自由に、そして対等に交流するための中立言語の創造と、諸民族間の兄弟愛および正義、に生涯を捧げた。エスペラントは、各種の民族語にみられる文法上の不規則を整理してつくったことばであるから、数字やアルファベットを並べるだけの暗号のような味気ないものではなくて、自然語とほとんど区別できない。

エスペラントは、28個のアルファベット文字と、例外をもたない、よく整理された僅かな基本文法から成り立っていて、短時間で学びやすく、表現力豊かな人間的なことばである。もちろん、日本語や英語と同じく、話しことばとしても世界中で実用されている。

それぞれの民族が互いに相手の言語、宗教、民族的文化を尊重しつつ意見を交換しようという場合に、それを可能にする手段の一つが国際共通語エスペラントなのである。エスペラントは、民族語にとって代わろうとするものではなくて、異なった母語を話す人どうしが交流する場合に使われる、民衆レベルでの「橋わたしのことば」であり、民際語とも呼ばれる。

3. エスペラントの現状
エスペラントを使う人は、世界で100万人といわれている。114年前の発表当時は、創作者のザメンホフただ一人が使い手だったことを思うと、その急激な普及ぶりがわかろう。現在では、エスペラントは個人的な国際交流の他に、各種の会議、大会でも会議用語として使われている。今年、クロアチアで開かれた世界エスペラント大会や、フランスで行われた国際青年エスペラント大会では、数千人の人がただ一つの言葉エスペラントを使って話しあった。

また、最近はインターネットの発達により、エスペラントの利用価値が非常に増大した。国際的なメールにエスペラントを使えば、どこの国の人とでもわけ隔てなく交流できる。

エスペラント関係のホームページもたくさんあり、ホームページだけでエスペラントを習得することも出来るし、辞書をダウンロードすることもできる。色々な国際的行事の案内にも使える。また、最近はネットによる国際ラジオ放送が増えており、ポーランドやスウェーデン、オーストリア、ヴァチカン、韓国などの放送をエスペラントで聞くことができる。また、ネット・ニューズは世界中の人が色々なテーマで討論しあう所であって、英語などの特定の言語を使わずに、エスペラントだけで討論するので、世界中の人が不平等を感じることなしに、平等な立場でこれに参加できる。

4. BTRON 「超漢字3」をエスペラントに翻訳する意義
日本生まれの優れた基本ソフトであるBTRONを、日本人だけでなしに、世界中の人に使ってもらえる道が、エスペラント訳によって開かれた。特に、アルファベットを使っていないアジア、中近東やアフリカなどの諸民族には便利になるので、歓迎されるに違いない。メッセージなど一部についての翻訳例はあるが、パソコンの基本ソフト全体のエスペラント化は、世界で初めてである。完全にエスペラント化されたパソコンが出現したので、世界中の人がそのパソコンを操作できることになった。

現在のパソコンの表示は各民族語で書かれているから、アラビアへ行った場合には、アラビア語で表示されているパソコンを私たちは操作しなければならず、困惑する。パソコンは、日本では幸いにも日本語でいろいろな表示が示されているが、少数民族ではそうはいかない。少数民族の人たちは、英語ないしは近辺の強国の言語で表示されているパソコンを使うほかない。英語などの強国の言語をマスターしなければ、パソコンを使うことができず、言語差別がデジタル・デヴァイドを生んで、差別を拡大再生産している。日本でも、「インストール」とか「ファイル」「ドライブ」などの英語がわからない限り、パソコンを操作できない。そんな状況を改めるために、私どもは、エスペラント表示による、世界中の誰でもが言語差別なしに、国際的に利用できるパソコンを作ることを計画した。さいわい、坂村教授と、BTRONのソフトウェアである「超漢字3」を制作販売しているパーソナルメディア株式会社とのご理解とご賛同を得て、BTRONのエスペラント化を行う共同プロジェクトを2001年3月に発足させることができた。

5. BTRON 「超漢字3」エスペラント版の作成経過
翻訳作業の前に、まず、コンピュータ用語の訳語を検討した。エスペラントによる既存の用例や用語集を参照し、直訳をなるべく避け、専門家だけではなしに一般のパソコンに詳しくない人にもわかる訳語を決めた。その上で「超漢字3」の画面上に表示されるメニューやメッセージなど2000項目近い膨大な表示項目を、9人で分担して翻訳した。それから、時間をかけて、数次にわたる専門家による校閲を受けて、表現の統一と平易化をはかった。これらの作業は当研究会内で電子メール(メーリングリスト)を使って効率よく行なわれた。交わされたメールは2ヶ月間で約500通に上り、それをプリントした原稿は厚さ6cmに達した。翻訳は8月末に完成し、その後はパーソナルメディア社が「超漢字3」へのエスペラント訳の組込作業を行った。2001年10月、このプロジェクトの完成によって,世界で初めて「国際共通語により操作可能なパソコン」が出現した。

6. エスペラント化されたBTRONの利用方法
エスペラント化されたBTRONは、市販されているBTRON仕様OS「超漢字3」(日本語版)に、「超漢字エスペラント対応キット」(※)を組み込むことによって利用できる。

この「超漢字エスペラント対応キット」は、2001年11月1日以降、パーソナルメディアおよびエスペラントTRON研究会のホームページから無償でダウンロードすることができる。(ダウンロードが困難な方へは、当研究会から実費で配布する)

※本キットにより、BTRONパソコンの操作上必要なメニューやパネル上の表示の大部分が、エスペラントの単語や文に変わる。(もちろん、日本語表示に戻すことも出来る。)ただし、現時点では、取扱説明書を含めたすべての説明文書がエスペラント語に翻訳されているわけではない。

7. TRON関係のホームページ
TRONプロジェクト http://www.tron.org/
トロン協会 http://www.tron.ab.psiweb.com/
パーソナルメディア株式会社   http://www.personal-media.co.jp/
超漢字   http://www.chokanji.com/
文系ユーザーの為の超漢字入門 http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/7239/
8. エスペラント関係のホームページ
日本エスペラント学会 http://www.jei.or.jp/
関西エスペラント連盟  http://www2u.biglobe.ne.jp/~kleg/
エスペラント放送の案内 http://www.bongo.ne.jp/~teg/radio.htm
ポーランドのエスペラント放送  http://www.wrn.org/ondemand/poland.html
バーチャル・エスペラント・ファイル  http://www.esperanto.net/veb/
エスペラント電子辞書  http://homepage1.nifty.com/esperlando/jp/
ネットワーカーに贈るエスペラント語入門・継続講座 http://www2.tokai.or.jp/esperanto/kurso/
   

(おわり)